2009年 11月 03日
聞き書き 中村又五郎歌舞伎ばなし
聞き書き 中村又五郎歌舞伎ばなし 郡司道子 著 講談社
先日、古本屋さんで偶然みつけた本です☆
中村又五郎(二代目)さんといえば今年の2月に94歳で亡くなられましたが、
人間国宝でもあった名脇役でした。
国立劇場養成所をはじめ、NYやパリでも歌舞伎を教えられた、
素晴らしい教育者としても知られております。
でもいちばん有名なのは、池波正太郎が惚れ込んだあまり『又五郎の春秋』という本
を出し、『剣客商売』の主人公の秋山小兵衛のモデルになった人!というあたりでしょうか。
自分としては舞台でも拝見したことはありましたが、
ドラマ『鬼平犯科帳』で何度かゲスト出演されていた姿が最も印象的です。
池波正太郎が惚れるのも無理はない!というほど、江戸の雰囲気を出せる数少ない
俳優さんです。歌舞伎界随一の読書家で上品でたおやかで、なにより粋です!
で、この本でも
役者はね、遊ばなければ一人前になれませんよ。
こんなことを云ったら、今の女性達に袋だたきにあいそうだから
昔の役者はねって但し書きをつけましょうか。
(略)・・・・・・僕が屋形舟での遊び方や作法を教わったのは芸者や待合の女将でした。
と紳士ではあっても遊びは大切、と仰っております。
昔はあって今の時代にないものに、義理人情の世界があるでしょうね。
例えば昔の芸者は、惚れてしまうと、夫婦にもなれないのに、夫婦になったつもりで
相手に尽くしてしまう。今の世の中に、こんな馬鹿げた芸者はいないでしょう。
打算と計算だけですからね。
でも我々の知っていた時代には、まだこういう芸者がいたんです。
今は吉原もないし、惚れた男のために身を捨てるような芸者を、
この節の若い人は知りようもないですね。そりゃ、本などで知識だけは
持っているでしょうが。かわいそうだ、特に芝居をする者にとってはね。
ま、吉原だけに限らず、江戸時代の生活感を出すこと自体は難しくなって
いるんですからね。で、我々知っている者が、そういう芝居をする時は、
ていねいに教える。すると、ああこういうものなのか、と判ってくれるんですね。
(引用ページ:142~143P)
この本は歌舞伎界の生き字引として知られた中村又五郎丈の目からウロコの芸談は
もちろん、上記のように芝居と吉原、江戸文化との関係なども学べます。
初代中村又五郎の長男と生まれ、父の死によってわずか6歳で一家の大黒柱になり、
子役として舞台に立ち、歌舞伎俳優のほか人生の選択がなかったという又五郎さんの
反乱万丈な人生もさらっと語られていて、人生訓でもあり、日本近代芸能史概説(笑)
でもありました。
『又五郎の春秋』もかつて読んだことがありましたが、今回の本は中村又五郎自身の
言葉がより前面に出ていて(『春秋』のほうは池波さんからのファンレター要素も
ありましたですから・笑)、じっくりとお話を堪能できました。
個人的には昭和43年に松本白鸚(現・松本幸四郎と中村吉右衛門の父)と
奥様連れで渡米し、NYの演劇研究所で三ヶ月間現地の俳優たちに
『勧進帳』を教えたおりのエピソードが面白かったです。
現地に駐在していた日本人商社マンに「アメリカ人に勧進帳を覚えられるわけない、
公演するなんてクレイジー」といわれて、俄然燃えてしまい(笑)、
勧進帳の心を丹念に教え、ついに公演を大成功させるのでした。
(かの商社マンも公演後にシャッポを脱ぎます、と謝りにきたそうです)
稽古中、奥様たちはヨーロッパに遊びにいってしまい、男二人アパートで
暮らし(笑)、出不精な白鸚(当時はまだ幸四郎)のため飯をつくる又五郎さん。
ホント、チャーミングで素敵です♪
そして初代中村又五郎のエピソードがスゴイ。
病が重くなり危篤に陥ると弟子達に鏡を持ってこさせて、
「腹を切ったり、病が重くなった時の顔はこうだ」
と苦しいなかで青黛の隈の入れ方を、自分の顔でやってみせた。
そして臨終に立ち会った弟子に、
「断末魔の表情は、こうするんだぞ」(P244)
まさに恐るべし、役者の業。
このほかマルセル・マルソーと芝居したときのことや、さまざま面白い話が
たくさんありました。
偶然、本屋さんで出会ったのですが、久々によい出会いをしました☆
以下雑談。
ちなみに中村又五郎さんについてそれほど詳しく知らず、
数年前にCSで鬼平をみていたときに、ゲスト出演していた又五郎さんのお姿を
拝見して以来、なんとなく脳内で浮かぶ永井尚志のイメージは又五郎さんデス(爆)。
この本を読んだら、ますます外せないゾと思うようになりました。
背が小さくて(笑)、気品があってそれでいて洒落ていて、厳しいときは厳しく
普段はニコニコ穏和な様子が、
「寛裕温粋」と云われた永井になにげにダブる感じがあります。
しかしそうなると、もしかしてこの先、映像作品に永井尚志が登場するときがあっても、
自分的は未来永劫「これぞぴったり」と思えなくなってしまう・・・のは困りもの。
だって又五郎さん的雰囲気のある俳優さんなんて、いませんから~~~~~(笑)。
ちなみに来年の龍馬伝、恐る恐るサイトをみたら、相関図によれば徳川関係で登場
しそうなのは家茂、慶喜、勝海舟のみらしく、ホッと胸を撫で下ろしたばかりです☆
(龍馬最晩年に永井邸に通っていたエピを飛ばしてくれるようなのだ♪←助かった!!!)
出るなよ~~出なくていいぞーーーー永井ーっ!!(爆笑)
それはさておき、中岡慎太郎のキャストはどーして決まらないの??>龍馬伝
名優ですよね~~。(白鸚さんともども)
こういう役者さんが少なくなっていくのはさびしい限りです。