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東都アロエ

杉本苑子さんの歴史小説

杉本苑子さんが亡くなられたとのニュースをみて、寂しい気持ちと共に、感謝の想いが湧きました。

歴史小説が好きだった私は、学生時代に、手当たり次第に乱読していたのですが、
杉本苑子さんの作品に出会って、しっかりと考証調査すると、歴史小説は、
こんなにも骨太なものになり、人物が輝きだすのだ、ということを教わりました。
いろいろ読んだけど、最も影響を受けた歴史作家さんが、杉本さんでした。

創作と考証の兼ね合いは難しいところです。
創作を押し出せば、外連味があって、派手で見栄えがよくなる。
考証を重視すれば、骨太になるけど、地味になる。

杉本さんの作品は、どちらかというと、派手ではなく、地味なほうです。
だけど、芯がしっかりしていて、結局何度でも読み返してしまう、魅力があります。

何かの短編集で、杉本さんが、小説を書くにあたり、何度でも図書館へ調べに行き、詳細な年表を作って、
どうしても、埋められない歴史の空白のみを、創作で埋めていくと、あとがきで書かれていて、
嗚呼、素敵!!、と、ひざまずくほど、痺れてしまった記憶があります。
これぞ、歴史小説作家さん!
歴史をリスペクトし、それを最大限、作品のなかに生かそうと試みる。
そういう、歴史へ、小説へ、どちらにも真摯な姿が、本当に格好良い方。

「孤愁の岸」などは、そういう手法の作品で、良き歴史小説でした。
「穢土荘厳」も、「檀林皇后私譜」、「絵島疑獄」なども、みーんな好きです。

「玉川兄弟-江戸上水ものがたり」では、玉川兄弟と関係のないシーンですが、とある場面が、今だに印象に残っています。
老中の松平伊豆守が、冬の朝、早めに江戸城に出仕していて、今でいう給湯室で(笑)、白湯をしみじみ飲む
という、たわいもないシーンですが、その場面を読んだとき、はじめて江戸城本丸の政庁の姿や、
伊豆さんの人間像が、生々しく浮かび上がり、「時代劇」と違う、
歴史上、確かに存在していた伊豆さんと御城を感じたことがありました。
しっかりと描く時代背景の下地ができている作品ならでは、です。

一方で、芸道に関する作品も、いろいろありました。
「華の碑文」の美しさ。
これはもう、芸術そのもの。能楽にのめりこんでいた杉本さんならではの愛がいっぱいの小説でした。

でも、マイフェイバリットは、「傾く滝」です(笑)。
通学途中に電車の中で、ぶっちゃけ、歌舞伎の芸道モノだと思い込んで読んでいたら、
「先生好きだ」と主人公の8代目團十郎が叫び、浪人の家庭教師の先生が「俺が好きか」
となって、……いきなりのBL展開に、度肝を抜かれたのですが、これがまぁ、泣ける作品で。
(まだBLなんて言葉のない時代でございましたが、杉本さんの作品、けっこう衆道モノ、ある♡)
いまだにBLというジャンルでいうなら、この小説は、わたしの鉄板です。

歴史というより、時代小説で、もっとも愛している作品が、「元禄歳時記」。
若き新井白石と、甲府宰相綱豊の友情を軸に、元禄のさまざまな物語が展開していく、
爽やかな小説です。
わたしの家宣好きのきっかけの小説(笑)。運命の出会いでした。

杉本さんの小説は女性を描く作品が多いのですが、
この方は、さっぱりした作風なので、男性を主人公にした小説が、本当はいいのです。
だから、もっと、骨太な武家モノを書いて欲しかったかな~~~。

最近は、書店で文庫をみかけなくなりましたが、古本でいいので、
ちょっと手にとっていただきたいな、という作家さんです。

新作を読むことはできなくなりましたが、たくさん残してくださった作品がありますから、
その小説を読み直していこうと思います。

杉本先生、たくさんの良作を生み出していただき、本当にありがとうございました。




Commented by やぶひび at 2017-06-03 10:08 x
杉本苑子さんが亡くなって、寂しさを感じます。
「孤愁の岸」読みました。筆力が半端じゃありません。
薩摩義士伝の漫画も読みましたが、文章だけで場面が浮かぶという凄さです。
今の時代小説で、あまり濃厚な描写は好まれないようですが。
「マダム貞奴」が原作の「春の波濤」観たくなりました
Commented by はな。 at 2017-06-04 18:47 x
文庫でも、分厚くて2冊に分かれている作品が多かったのですが、
杉本さんの小説はあっという間に、読み終わっていました。
1冊も、途中で挫折したものがありません。

最近の小説は、けっこう途中挫折が多くって……。
この違いは何なのか、この機会にじっくり考えたいと思います。

「春の波濤」懐かしい……。
大河ドラマで最初で最後の、杉本さんの原作作品でしたが、
脚本があまりに原作から乖離して、杉本さんが「原作」外してほしいって、
仰っていた記憶があります。
内容はともかく、松坂慶子さんがお美しかった!という印象の大河でした☆

Commented by まきこ at 2017-06-07 15:27 x
中学時代から永井路子先生の大ファンだった私は、
お二人の対談集(最高に面白い!)がきっかけで、杉本先生の著書も読むようになりました。

お年を考えればやむをえないことなのでしょうけれど、
寂しいです…。
Commented by はな。 at 2017-06-07 18:33 x
まきこさん、私も永井路子さんの小説読んでましたー!

それも、杉本さんとの対談集を読んだのが、きっかけ(笑)。
(『ごめんあそばせ~』シリーズとかですね)

先に杉本苑子さんの小説を読んでいて、対談集読んでからの、永井さんへ。

つまり、まきこさんと似ているコースを辿りました。
(いや、実際にこういうファン、多い気がする)

お二人がお元気に活躍されていた頃が、懐かしいです。
Commented by まきこ at 2017-06-08 00:08 x
はな。さん、そうだったんですか!(嬉)
ごめんあそばせシリーズ、最高でしたよね♪
あの頃は良かったなあ…
Commented by はな。 at 2017-06-08 10:02 x
当時は、まだ学術的な歴史研究と、小説やドラマなどとのリンクが少なくて、
情報も少ない中、歴史小説家の方々が調べられた、
歴史情報がとても新鮮で楽しかったですね♪

とくに杉本さんや永井さんは、従来からある、講談的イメージに頼らず、
ご自身で熱心に調査されて、新たな角度から、歴史の人物を描かれていたので、
対談とかも、スカッと言いたい放題(笑)で、随分と楽しませていただきました。

史実の追及も、もちろん楽しいですが、ある意味で、歴史上のえげつない現実も見せられます。
ですが、あの頃の、もう少しふわっとした情報のほうが、
ファンタジーがあり、情緒があったかも、ですね。
by aroe-happyq | 2017-06-02 22:09 | | Comments(6)