2017年 09月 10日
「ギャング・オブ・N.Y.」のクライマックスは文久3年。【追記あり】
もうけっこう古い映画ですが、
マーティン・スコセッシ監督&ディカプリオ主演の「ギャング・オブ・N.Y.」ってありますよね♡
まだビデオの時代に、レンタルした記憶がある、ってなぐらい昔の映画ですが、
先日、たたき売り状態のブルーレイ特売に出くわしまして、そこでこの作品に再会しました。
しょうじき、初回みた感想は、「まーなんて昔のNYって、ひでぇぇぇ町だな!」ってなぐらいだったのですが、
(リーアム・ニーソン好きとしては、冒頭、かっけーな、ぐらいに。
プリオ様はこの頃から太り出して、ちょっとなーと)
なんか、マーティン・スコセッシ監督のコメンタリーが収録とあったので、
「あ!監督とこの映画みたら面白そう」と思って、
BDを衝動買いしました(990円でね)。
で、ん十年ぶりに、見たのでございますが、これみた当時は、
今ほど江戸マニアではなかったので、
年号にあまり敏感ではなかったのです。
でも今回みてみたら、物語は1840年代にはじまり、
ラストは1863年(文久3年)ってことに感激!!!
つまり、N.Y.ッ子のタウンゼント・ハリスさんが、暮していて、
兄弟と営んでいた会社潰して、外交の道へ旅立つ前の時代に始まり、
ちょうど日本から帰国した翌年に終わる、そんな映画だったのでした。
つまり、江戸時代のN.Y.か、いやーそう思って、比較すると、
N.Y.って、ホントにダメダメですよ!
(もちろん、映画の娯楽性のために、いささか強調した部分は、
ちゃんと汲み取ったとしても)
N.Y.の最下層の住むエリアが物語のメインですが、
古い移民グループ(移民だろ?なのに、ネイティブズとか名乗っている(爆))と、
新しい移民グループが、それぞれ小さな組をいくつもつくって、抗争にあけくれています。
タイトルは、ギャングって、なっていますが、1920年代のギャングを想像してはいけません。
ギャングとチーマーの中間ぐらいの、感じです。
同時代の日本の博徒さんに近いけど、博徒よりも、モラルがない。かなりひどい。
彼らは火消しも担っているのですが、当然、火事場で別のグループと出会えば喧嘩となる。
これは、江戸の町火消しも、まあ同じです。ですが、彼らは火事場泥棒でもあって、これが最悪!
燃えている家で盗むのはいいけど、なぜかまだ燃えていない隣の家も、泥棒にはいる。
しかも、誰も止めないし、警察なんてなにげに容認している~~~~。家の人が止めても無駄。
火も、まともに消さない。でも江戸と違って、木造ではないので、燃え広がらないから羨ましい。
(町奉行配下の町火消しのある、江戸はなんて秩序があって平和なんだろうと、再確認)
移民にやってくる人びとへのヘイト行為は日常茶飯で、寄港した船に盗みにはいるのも、殺人も当たり前。
おいおい、ハリスさんよ、お前さんは岩瀬たち海防掛に、随分とN.Y.の自慢をしていたみたいだけど、
どーみても、江戸のほうが、都市としてはるかに、まともよ?って、思う次第です。
ペリーやハリスに日本は「半未開」呼ばわりされたけど、似たようなもんだぜ。
これが「文明」か?……とぼやいていたら、スコセッシ監督はコメンタリーで、
N.Y.について「未開」とはっきりご発言。さすが!でございます。
あ、そうそう。物語についても説明を。
主人公の少年が、移民グループの頭だった父を、ネイティブズとの抗争で殺され、
施設で育った後、N.Y.に戻って、殺した一方の頭に近づき、ちょっと悪の魅力に惹かれつつも、
やがて苦労の末に仇討ちを成功させるという、実に、江戸末期といふ同時代にふさわしい、仇討ちモノです。
(やはり、地域は違えど、メンタル的に、人間とは同時代的な行動をするものなのか?)
でも、物語よりも、やはり、興味深いのは、移民の町のN.Y.の実相と、リンカーン登場、南北戦争勃発という、
時代背景でしょうか。
仇討ちと平行して進む、クライマックスの徴兵制に反対する市民が起こした、N.Y.大暴動がまた、凄い。
これは1863年に起きた、N.Y.史のなかでも、9.11の次に大きな悲劇だったのだとか。
鎮圧するために、治安部隊はバンバン銃を市民に撃つし、
港の軍艦から、彼らに向けて大砲をぶっ放すんでございますよ。
リンカーン政権、なかなかワイルド……。こんな高圧な態度に出るから、誰かに命を狙われるのさ、大統領。
……ハリスさん、気の毒に、愛する故郷に帰った途端、この暴動に遭遇したのね……。
打ち壊しする人びとは、高級住宅街にも侵入して、家は壊すわ、物は奪うわで……、ハリスさんは無事だったのかしら。
とまあ、初回にみたときよりも、楽しめたのは、やはり監督のコメンタリーのおかげ。
スコセッシ監督も、N.Y.生まれで、この街を愛し続ける人。「沈黙」等の信仰に関する映画は別として、
この監督のNYを舞台にした映画は、どれも、本気で素晴らしい。
そのNY愛が、コメンタリーにもほどばしっており、歴史をわかりやすく解説してくれます。
この暴動の背景も、映画以上に、よくわかりました。
なので、この映画を歴史を楽しむために観賞される場合は、監督のコメンタリーも合わせてお楽しみください。
文久3年といえば、日本でも動乱期突入の年。事情はことなるけれど、N.Y.も、江戸も、いろいろたいへんだったのね。
……なんてことを想いながら、みると、この映画はなかなか奥深いです。
でもねーーー、身贔屓すぎと言われるのを承知であえて言わせていただくと、
やはり当時の世界NO.1の大都市・お江戸は、動乱期とはいえ、治安もよし、人気(じんき)もよし、で、
なかなか良い城下町だな~~~と、同時代のNYを見て、再確認した次第です(笑)。
(ハリスさんに騙されて、N.Y.をかっけー街だと誤解した、外国奉行諸氏にこの映画を見せてあげたひ)
【追記】
この記事をみてくれた、幕末友からLINEがきまして。
「こんなに治安がひどかったね、アメリカの都市は。良かったよね、釜次郎さんたち。
南北戦争のおかげで、アメリカ留学から、オランダ留学へ振替になって!」
嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼、そうだわーーーーーっっ(忘れてた)
ハリスの膳立てで(軍艦注文との抱き合わせだけど)、最初の留学先はアメリカだったっけー!
当然、この街へも行ったはず。住んだかはわからないけど。
うーむ、オランダのほうが、いいよーーーーーー!!!
釜次郎たち、良かったよね~~~~~~。
学問を学ぶ環境が整っているとは思えん!ヨーロッパのほうが落ち着いていて、絶対にいい!!
……という、やりとりをして、ほっこりしてしまいました。
それは見てみたい(聞いてみたい?-笑-)です!
当時のNYと江戸比較では、ハリスさんも「日本を開国させることが、はたして、この国のためなのか?」と自問しているくらいなので、少しは自覚があったんじゃないかしら(笑)
でもまあ、仕事ですしね~~。
ハリスさんについては、帰国時期が悪かったこともあって(本人の性格もありそうではあるけれど……)その後不遇だったみたいで、いろいろ、時の運にめぐまれなかった人だな~という気がします。
この映画はコメンタリー付きでの鑑賞が必須です(笑)。
スコセッシ監督の作品で、実は「エイジ・オブ・イノセンス」が
一番好きなのですが(N.Y.の上流社会モノなんて、新鮮だったので)、
そっちにもコメンタリー付けて欲しかったぐらい……。
ハリスさんも南北戦争で人生を狂わされたアメリカ人の一人ですよね。
もし、あの戦争がなかったら、お江戸で、イギリスやフランスよりも優位なまま、
西洋外交を牽引する、徳川御公儀の外交顧問役として、権威も保てて、
メキシコドルと金小判の通貨マジックで、荒稼ぎして、さらに財も得たはず(笑)。
なのに……、アメリカに帰れば、ただのおっさんです。
いちおう晩年は教育者として、いろいろ活動したみたいだけど……。
岩倉使節団が訪ねてきたとき、「日本は優秀な外国奉行がいて幸せだったね」的な
思い出話を語るけど、きっとハリスさんにとっても、幸せな時代は、下田での苦労の末に
日米通商条約を結び、岩瀬や井上たちと江戸で過ごしていた短い日々だったのかも……なんて、思いました。
ただ、この映画みると、未開のN.Y.ッ子にしては、
いつも日本では上から目線だったよなハリスさん、なんてツッコミたくはなります(爆)。