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東都アロエ

老中首座の007【追記あり】


余は長崎に至りて、奉行と蘭人との間に於ける秘密交渉事件にも
特に干与し、蘭人の密談中或いは政府に対して忌憚すべきものありしも、
予て(阿部)勢州の大度量を知るが故に、忌憚からず、
岩瀬修理を経て勢州に密報せしが、勢州逝去の後は嫌疑を避けて
之を止めたり。

※原文はカタカナですが、読みやすくひらがなにしてあります。


これは長崎に伝習に派遣されていたK氏の回想談ですが、
とんでもない告白でもある(笑)。
K氏の告白を信じれば、彼は長崎奉行と出島のオランダ人(伝習教官、カピタン含む)
の会談はおろか、「オランダ語はわからないサ」とタカをくくっているオランダ人同士の
黒い密談に耳をそばだてて、目付の岩瀬修理(忠震)を介して、老中首座の
阿部伊勢守にひそかに通報していた・・・・・というスパイ活動を認める大胆発言!(笑)

時期を特定するのは簡単。「勢州逝去の前」ということで、
K氏が長崎に派遣された安政2年~安政4年6月までの話となります。
ということは、第一期長崎海軍伝習~ニ期にまたがる時期と重なります。


さて、このK氏とは????(ってもうわかっちゃってますよね(爆))


勝麟太郎氏です


なんだかこういうエライ人のためにせっせと危ない橋を渡っている勝さんって
あんまり想像できないのですが(笑)、でもまだまだ駆け出しの頃は
勝さんであっても、こういう仕事をやるんですなーー(汗)。
しかも「勢州の大度量を知るが故に、忌憚からず」って、
けっこう阿部正弘を買ってたりして(爆)。


この談話は篠原宏著『海軍創設史』(リビロポート)の35Pに登場する
「勝安芳説話」(としかなく、出典不明)の一部です。
今回抜粋した部分以外の談話は『史談会速記録』などで読んだ内容と
一致するのですが、この部分の内容だけは初耳。
ちょっと面白いので、紹介してみました。

K氏いえいえ、勝さんのスパイ大作戦ですが、
はたして阿部からの指令だったのか、それとも勝さんの自発的行動だったのか?
もしかすると第三の男の関与があったのかもしれない。
それは「勝安芳説話」の前半部分に、

余は杉を(阿部に)推薦せしに、直に二十人扶持にて雇い入れたり。
之に因りて余の名もまた勢州に知られたるなり。
其の後斉彬候は余に向かひて「勢州に話置きたり」と言はる。
最初余はその何事なるかを解せざりしに、図らずも余は三十俵の小給より
にわかに二百俵の旗本となり、長崎に遣わされ、蘭人に就きて
航海術を伝習する事となれり。


杉というのは勝さんの門人の杉亨二(統計学の祖。自叙伝アリ)のことですが、
それはさておき、やっぱり出ました、島津斉彬。
・・・・・つーか、阿部とどんだけ仲がいいんだよ!
勝サンの長崎行きって、大久保忠寛や岩瀬修理の推薦じゃないの?(笑)
斉彬なの???・・・・・・ということで、策士のこの人が絡むとなれば
タダで勝さんを長崎に派遣するために阿部に推薦したり
しない気がするのです。
もろ、スパイしてきてね♪というような裏約束込み、のような。
(勝麟太郎と斉彬の出会いは、『史談会・・』にもありますが、蘭学好きの斉彬の
洋書の翻訳バイトの依頼者(斉彬)とバイト苦学生(麟太郎)からスタートした、
古いお付き合いだそうです)

それにしても、長崎で船酔いに耐えながら、よく学び、
スパイ活動までやっていたなんて、勝さんホントに頑張りました☆

そしてスパイ行動ですっかり鍛えられた?勝さんは、
第二期伝習の教官カッテンディーケが『長崎海軍伝習の日々』のなかで
語っているとおり、「我々の心のうちをよくわかって」持ち上げるのがうまい
というような、異人との交渉巧者になりましたようです。

それにしても、ふと思うのですが。
このスパイ大作戦・・・って、
もしかして一期伝習総監永井玄蕃頭は知らないのか????(爆)
いちおう・・・目付なんですけどーーーっっ。
(報告は岩瀬ルートだものなぁ・・・・・)
でもなんかこういう微妙な人間関係って面白いデス。



今回紹介しました「勝安芳説話」をこの本以外で見かけた方、
ぜひぜひご一報ください。他力本願でスイマセンっっ。


ちなみに話題にでた『史談会速記録』の勝さん談話は、
合本24 162号~165号
合本40 314号
などなどで読めます。
314号の談話だけは『海舟語録』などのように、くだけた口調の談話ですが、
合本24収録の4本は島津家に招かれて、真面目に語っているので
こちらのほうが読みやすく、信ぴょう性も高い(笑)かもです。

【追記:3月31日】
「勝安芳説話」は『阿部正弘事蹟』で「諸家説話」のひとつとして
登場しておりました。・・・・またこの「諸家説話」かぁぁ・・。
永井の談話もあるし、「諸家説話」そのものを読みたいのですが、
阿部家所蔵としかなく、こちらも火事で散逸したようで。
とりあえず、ネタ元は明らかとなりましたのでホッとしました。
by aroe-happyq | 2008-03-24 11:14 | 長崎伝習所系 | Comments(0)